2025年4月30日にシンポジウム
「里海を泳ぐスナメリたち〜大阪湾から考える海と人の共生〜」
を開催し、政策提言をしました。
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大阪湾における里海生態系の保全と共生モデルの持続的発展に向けた提言
2025年4月30日、神戸大学深江キャンパスにおいて開催されたシンポジウム「里海を泳ぐスナメリたち~大阪湾から考える海と人の共生~」では、2022年度から2024年度にかけて実施された大阪湾におけるスナメリ等の生態調査結果が報告されるとともに、伊勢湾・三河湾・瀬戸内海における比較研究事例が共有された。後半の意見交換会では、研究者、行政関係者、教育関係者、市民団体、水族館職員、報道関係者、漁業従事者等が一堂に会し、大阪湾の生態系保全と持続可能な共生のあり方について活発な議論が行われた。本提言書は、当該調査成果および意見交換を踏まえ、大阪湾の里海的性格を生かしつつ、海と人との持続的共生を可能とする政策的方向性について、以下のとおり提案するものである。
1.背景と目的
大阪湾のように人口1000万人規模の都市圏に隣接しつつも、生物多様性に富んだ里海特性を保持する稀有な海域である。特にスナメリやハセイルカなどの海生哺乳類が年間を通じて定着している事例は、全国的にも注目に値する。本提言は、科学的知見と地域の主体的取組を融合させ、行政、産業、市民、研究者等の多主体による協働的な生態系保全・利用モデルの確立を目指すものである。
2.現状の概要と課題
(1)スナメリ等の定常的な生息と分布傾向
環境DNA分析および音響記録から、大阪湾におけるスナメリとハセイルカの通年生息が確認された。特に関西国際空港周辺は人工島下部の漁礁化、航行制限区域の存在等により、好適な生息環境となっている可能性がある。
(2)漁業との関係性
一部の漁業従事者からは「スナメリ出現区域では漁獲量が減少する」との認識も示されたが、長期的視点では生態系の豊かさが漁業資源の安定供給に寄与する可能性が指摘されている。
(3)情報発信・市民理解の課題
市民や報道機関からは、スナメリの存在が十分に周知されていない現状が課題として挙げられた。視覚的・物語的要素を含んだ効果的な情報発信が求められる。
(4)データの分散と連携体制の未整備
大学・市民団体・行政・水族館等がそれぞれ観察・記録活動を行っているが、データの集約と共有、意思決定への反映体制が未整備である。
3.政策提言
提言1:多主体協働による「大阪湾里海プラットフォーム」の設置
以下の機能を有する協議体の新設・運用を提言する。
・構成主体:地方自治体、研究機関、教育機関、水族館、市民団体、漁業協同組合、漁業協同組合連合、報道機関、企業等
・主な機能:観察・調査データの集約と共有、市民科学の推進、行政施策への知見提供、資金調達支援(CSR・ESG連携含む)
提言2:市民参加型モニタリングと教育普及活動の強化
・海生哺乳類(スナメリやハセイルカなど)の目撃・ストランディング情報を報告できるウェブポータルやフォームの開発・運用を支援
・学校教育や地域イベントにおける海生哺乳類・大阪湾生態系に関する教育教材の整備
・水族館による双方向的な展示・体験型プログラムの開発
提言3:科学的知見に基づく行政施策の策定支援
・漁獲記録・環境変化データを含む「大阪湾環境データアーカイブ」の構築
・海生哺乳類のモニタリングデータを活用し、これらの生息状況を基準にした「海の健康度評価」を導入
・環境DNA、水中音響、目視観測などのデータを基に、観光資源化を見据えた海生哺乳類の分布域の特定
提言4:広報戦略の明確化とブランド化の推進
・「関西スナメリ空港」など地域資源を活用したシンボルネーミング・ブランド創出
・メディアとの連携を通じた海生哺乳類・海洋環境の可視化(ドキュメンタリー、SNS等の展開)
・漁業者と連携した海生哺乳類映像の収集と広報活用を提案
提言5:企業との連携強化による資金的基盤の安定化
・大手企業のCSR・ESG活動と連携したプロジェクト形成
・SDGsとの整合を図った持続可能な湾岸都市づくりの推進
4.今後の展望
本提言に基づき、大阪湾を「都市と自然が共存する海」として再定義し、次世代にわたる里海生態系の継承と地域社会の活性化を実現するため、関係機関の具体的な取組が早期に開始されることを期待する。また、本取組は、他の都市湾や内湾地域に対する先行モデルとしての展開も視野に入れ、全国的な連携体制の構築も進めていく必要がある。